はじめに | 優れた無線LAN環境を構成する3要素
優れた無線LANのユーザーエクスペリエンスは、単一の指標では測れない。それは、「性能」「可用性」「セキュリティ」という3つの要素が高いレベルでバランスすることによって初めて実現されるものである。
- 性能 (Performance): 通信の「速度」に関わる要素。本稿ではPHYレートや実行スループットが該当する。
- 可用性 (Availability): 通信の「安定性・継続性」に関わる要素。ローミングによる接続維持や、干渉のない安定した通信が該当する。
- セキュリティ (Security): 通信の「安全性」に関わる要素。暗号化による盗聴防止や、適切なユーザー認証が該当する。
0 | 無線LANの物理的基盤 - 周波数帯の理解
性能、可用性、セキュリティの議論に入る前に、その土台となる「周波数帯」の特性を理解することが極めて重要である。利用する周波数帯によって、無線LANの振る舞いは根本的に変わる。
0-1 | 主要3周波数帯の特性と差異
現在、無線LANで主に利用される2.4GHz、5GHz、6GHzの3つの周波数帯について、その特性、利点、課題を比較する。
| 特性 | 2.4GHz帯 | 5GHz帯 | 6GHz帯 (Wi-Fi 6E/7) |
|---|---|---|---|
| 主な利用規格 | 802.11b/g/n/ax | 802.11a/n/ac/ax | 802.11ax / be |
| チャネル幅毎の独立チャネル数 (日本) | 20MHz: 3 | 20MHz: 19 40MHz: 9 80MHz: 4 160MHz: 1 |
20MHz: 24 40MHz: 12 80MHz: 6 160MHz: 3 |
| 特長 (Pros) | ・電波が遠くまで届きやすい ・壁などの障害物に比較的強い |
・利用可能なチャネル数が多い ・2.4GHz帯より高速 ・家電などからの干渉が少ない |
・利用可能なチャネル数が圧倒的に多い ・干渉が極めて少ない (グリーンフィールド) ・広帯域なチャネルを複数確保可能 |
| 課題 (Cons) | ・干渉源が非常に多い (Wi-Fi/Bluetooth/電子レンジ等) ・利用可能なチャネルが少なく、深刻な混雑状態 ・通信速度が遅い |
・2.4GHz帯より障害物に弱い ・DFSによる制限があり、起動/チャネル変更時に通信断が発生する可能性がある |
・障害物に最も弱い ・電波の到達距離が短い ・対応するAP/クライアントがまだ少ない |
| 主な用途 | IoTデバイス、古い機器、高い接続性が不要な環境 | 一般的なオフィス/エンタープライズ環境、動画ストリーミング、Web会議 | 高密度環境、AR/VR、医療、工場、スタジアムなど、超高速・低遅延・高信頼性が求められる環境 |
5GHz帯のうち、W53とW56のチャネルは気象・航空レーダーと周波数を共有している。そのため、これらのチャネルを使用するAPは、起動時やチャネル変更時にDFSチェック(レーダー波検知)を1分間実施する義務がある。この間APは電波を発せず、可用性に影響を与える。6GHz帯にはこのDFSの制約がないため、より安定した運用が可能である。また、このDFSチェックの動作や、レーダー検知後のチャネル変更ポリシーはAPの実装によって異なり、実際の可用性への影響度合いが変わることがある。
1 | 通信の性能(速度)
本章では、無線LANの通信速度を決定づける技術的要素を、有線LANとの比較から始め、規格の進化、そして実効速度の算出までを解説する。
1-0 | 概念の整理:有線LANとの対比
無線LANの各要素を理解するために、まず使い慣れた有線LANの概念と対比する。この対比により、特に媒体アクセスの根本的な違いが明確になる。
基本要素の対比
| 有線LANの要素 | 無線LANでの対応要素 | 解説(類似点と決定的な違い) |
|---|---|---|
| LANケーブル | チャネル | 類似点: データが通る「媒体」。 決定的違い: ケーブルは占有媒体(衝突が起きにくい)。チャネルは共有媒体(衝突回避が必須)。 |
| スイッチの物理ポート | BSSID(BSSインスタンスの識別子) | 類似点: ネットワークへの物理的な「接続口」。 決定的違い: 物理ポートはケーブルを挿す単一の口。BSSIDは各BSS(SSIDと無線IFの組み合わせ)を識別するMACアドレス。1台のAPが複数のBSSIDを持つこともある。 |
| VLAN名 | SSID | 類似点: ユーザーが接続する論理的な「ネットワークの名称」。 決定的違い: SSIDは複数のAP(BSSID)にまたがって設定でき、ローミングを可能にする。この点でVLAN名に近い。 |
| スイッチングハブ | アクセスポイント (AP) | 類似点: クライアントをネットワークに接続する中継機器。 決定的違い: スイッチはポートごとに衝突ドメインを分割。APはチャネル全体で一つの衝突ドメインを形成し、媒体を共有する。 |
設計要素の対比
さらに、無線LAN特有の性能を決める設計要素が、有線LANの世界ではどのように位置づけられるかを整理する。
| 無線LANの設計要素 | 有線LANでの対応概念 | 解説 |
|---|---|---|
| 無線LAN規格 (Wi-Fi 6 等) | Ethernet規格 (1000BASE-T 等) | どちらも通信方式全体の技術仕様を定義する。新しい規格ほど高速・高効率になる。 |
| チャネル幅 (チャネルボンディング) | リンクアグリゲーション(概念として近い) | データを送る「道幅」を広げる点では似ている。ただし、ボンディングは物理層で周波数帯域を束ねるのに対し、リンクアグリゲーションは複数の物理リンクを論理的に束ねる点が異なる。 |
| 空間ストリーム数 (MIMO) | 対応する概念なし | 無線特有の技術である。同じ周波数(チャネル)の中で、複数のアンテナを使って同時に複数のデータ(ストリーム)を送受信し、速度を倍増させる。 |
| 変調方式 (MCS Index) | 信号の符号化方式 (PAM-5 等) | 信号にどれだけ高密度に情報を詰め込むか、という物理層の技術である。有線では規格で固定だが、無線ではSNRに応じて動的に変更される点が大きな違いである。 |
| ガードインターバル | 対応する概念なし | 無線特有の課題である反射波(マルチパス)による信号干渉を防ぐための保護区間であり、有線には不要な仕組みである。 |
1-1 | 無線LAN規格の進化と主要技術
無線LANの「規格」(802.11axなど)とは、通信を行うための技術的な仕様やルールを定めた世界標準である。規格が新しくなるほど、より高速で効率的な通信を可能にする新しい技術(MIMOの拡張、高密度な変調方式など)が追加・採用される。つまり、規格とは「どの機能をどのレベルまで使えるか」を定義した指標と考えることができる。
| 規格名 | 通称 | 周波数帯 | 最大PHYレート | 最大 チャネル幅 |
最高 変調方式 |
MIMO (最大空間ストリーム数) |
主要な新技術 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 802.11a/g | - | 5/2.4GHz | 54 Mbps | 20 MHz | 64-QAM | - | OFDM変調方式の導入による高速化 |
| 802.11n | Wi-Fi 4 | 2.4/5GHz | 600 Mbps | 40 MHz | 64-QAM | SU-MIMO (4x4) | MIMOおよびチャネルボンディングの導入 |
| 802.11ac | Wi-Fi 5 | 5GHz | 6.9 Gbps | 160 MHz | 256-QAM | DL MU-MIMO (4x4) | MU-MIMO (Downlinkのみ)、広帯域化 |
| 802.11ax | Wi-Fi 6 | 2.4/5GHz | 9.6 Gbps | 160 MHz | 1024-QAM | DL/UL MU-MIMO (8x8) | OFDMAによる多端末通信効率化、TWT |
| 802.11ax | Wi-Fi 6E | 6GHz | 9.6 Gbps | 160 MHz | 1024-QAM | DL/UL MU-MIMO (8x8) | 6GHz帯の利用開始による周波数リソースの大幅な拡充 |
1-2 | 性能を決定する要素:規格の共通仕様とハードウェアの実装差
「Wi-Fi 6対応」と謳われる製品でも、なぜ性能に差が出るのか。それは、規格が定める要素と、製品のハードウェア実装によって決まる要素があるためである。この違いを理解することは、適切な製品選定と設計において極めて重要である。
1-2-1 | 規格で保証される共通仕様(ソフトウェア/プロトコル)
これらは、その規格を名乗るために必須でサポートしなければならない機能である。通信の「ルール」や「言語」にあたる部分であり、どのメーカーの製品であっても共通して搭載されている。
- 変調方式 (Modulation): 電波にどれだけ高密度に情報を詰め込むかという技術である。Wi-Fi 6対応デバイスは、電波状況が許す限り1024-QAMという高密度な変調方式で通信する能力を必ず持っている。
- 多元接続方式 (Multiple Access): Wi-Fi 6は、多端末環境での通信効率を劇的に向上させるOFDMAという技術をサポートすることが必須である。
- セキュリティ規格: Wi-Fi CERTIFIED 6の認定要件として、より強固なセキュリティ規格であるWPA3への対応が必要となっている。特に、6GHz帯を利用するWi-Fi 6EではWPA3が必須である。
1-2-2 | 製品毎に異なるハードウェア仕様
これらは、規格で定められた「最大値」や「選択肢」の中から、メーカーがコストやターゲット市場に応じて選択・実装する物理的な要素である。同じ「Wi-Fi 6対応」でも、製品の価格や性能が大きく異なるのは、主にこれらのハードウェア仕様の違いによるものである。
- MIMO (Multiple Input, Multiple Output) の深掘り: 複数のアンテナで同時に送受信を行い、速度と品質を向上させる技術である。これは最も代表的なハードウェア依存要素である。
- 規格上の最大値: Wi-Fi 6では最大8x8 MIMOまでサポートされる。
- 製品の実装: しかし、コストや消費電力、物理的スペースの制約から、ほとんどのPCやスマートフォンは2x2 MIMOで実装されている。例えば、最新のiPhone 16もWi-Fi 7に対応しているが、MIMO構成は2x2である(出典: Apple「iPhoneのWi-Fi仕様の詳細」)。APは2x2, 4x4, 8x8など様々な製品が存在する。
- 対応チャネル幅 (Channel Bonding): データを送る道の広さである。
- 規格上の最大値: Wi-Fi 6では最大160MHz幅までサポートされる。
- 製品の実装: 多くのAPは160MHz幅に対応しているが、安価なクライアントデバイスでは80MHz幅までしかサポートしていない場合がある。
- 対応周波数帯:
- 規格上の選択肢: Wi-Fi 6規格は2.4GHzと5GHzで動作する。
- 製品の実装: 「Wi-Fi 6E」対応製品は、これに加えて6GHz帯での通信が可能なハードウェアを搭載している。
MIMOのメリット・デメリット
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 性能 | スループット向上(空間多重): アンテナ数に比例して通信速度が倍増。 品質安定化(ダイバーシティ): 信号を合成し信頼性を向上 (MRC)。 距離向上(ビームフォーミング): 特定方向に電波を集中。 |
環境への依存: 反射波が少ない環境では効果が薄れる。 |
| コスト/物理 | - | アンテナやRF回路が増えコストが上昇。消費電力が増加し、デバイスが大型化しやすい。 |
1-3 | パフォーマンス組み合わせと実行速度の実測目安
各種パラメータの組み合わせによるPHYレートと、実測に近い実行速度の目安は以下の通りである。
| パターン | 規格 | チャネル幅 | MIMO | PHYレート (最高MCS) | 実行速度目安 (効率60%) | Uplink 1Gbps時の最終スループット | Uplink 2.5Gbps時の最終スループット |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Wi-Fi 5 | 20MHz | 2x2 | 173 Mbps | 104 Mbps | 104 Mbps | 104 Mbps |
| 2 | 20MHz | 4x4 | 347 Mbps | 208 Mbps | 208 Mbps | 208 Mbps | |
| 3 | 40MHz | 2x2 | 400 Mbps | 240 Mbps | 240 Mbps | 240 Mbps | |
| 4 | 40MHz | 4x4 | 800 Mbps | 480 Mbps | 480 Mbps | 480 Mbps | |
| 5 | 80MHz | 2x2 | 867 Mbps | 520 Mbps | 520 Mbps | 520 Mbps | |
| 6 | Wi-Fi 6 | 20MHz | 2x2 | 287 Mbps | 172 Mbps | 172 Mbps | 172 Mbps |
| 7 | 20MHz | 4x4 | 574 Mbps | 344 Mbps | 344 Mbps | 344 Mbps | |
| 8 | 40MHz | 2x2 | 574 Mbps | 344 Mbps | 344 Mbps | 344 Mbps | |
| 9 | 40MHz | 4x4 | 1.1 Gbps | 688 Mbps | 688 Mbps | 688 Mbps | |
| 10 | 80MHz | 2x2 | 1.2 Gbps | 720 Mbps | 720 Mbps | 720 Mbps | |
| 11 | 160MHz | 2x2 | 2.4 Gbps | 1.44 Gbps | 1000 Mbps | 1440 Mbps | |
| 12 | 80MHz | 4x4 | 2.4 Gbps | 1.44 Gbps | 1000 Mbps | 1440 Mbps | |
| 13 | 160MHz | 4x4 | 4.8 Gbps | 2.88 Gbps | 1000 Mbps | 2500 Mbps |
注: 最終スループットは、APの有線アップリンク速度がボトルネックとなる場合を示す。
1-3-1 | 計算式の根拠:サブキャリアの理解
PHYレートの計算式に現れる「データサブキャリア数」は、無線LANの通信方式であるOFDM/OFDMAの根幹をなす概念である。これは、通信に使う周波数の道(チャネル幅)を、さらに多数の細い搬送波(サブキャリア)に分割してデータを伝送する技術である。
このサブキャリアの総数や、そのうち実際にデータ転送に使う「データサブキャリア」の数は、IEEE 802.11の規格書によってチャネル幅ごとに厳密に定義されている。以下の表は、Wi-Fi 6 (802.11ax) における定義値である。
| チャネル幅 (MHz) | FFTサイズ | 総サブキャリア数 | パイロットサブキャリア数 | データサブキャリア数 (計算に使用) |
|---|---|---|---|---|
| 20 | 256 | 242 | 8 | 234 |
| 40 | 512 | 484 | 12 | 468 |
| 80 | 1024 | 996 | 16 | 980 |
| 160 | 2048 | 1992 | 32 | 1960 |
注: 80MHzおよび160MHzのデータサブキャリア数は、IEEE 802.11ax規格で定義された値であり、ガードトーンなどの影響で20MHz幅の値(234)の単純な倍数にはならない。
1-3-2 | 計算根拠
本表に記載の「PHYレート(最高MCS)」およびそれに基づく実行速度は、クライアントの電波環境が非常に良好な状態を想定した理論値である。一般的に、最高変調方式である1024-QAM (MCS 10/11) の安定利用にはSNR 30-35dB以上が、256-QAM (MCS 8/9)にはSNR 25-30dB程度が必要となる。実際の通信環境がこの基準を下回る場合、デバイスは通信を安定させるために動的に低速なMCSへ切り替える(レートアダプテーション)ため、PHYレートは表記の値を下回る。
基本計算式:
PHYレート = (データサブキャリア数 × 変調ビット数 × 符号化率 × 空間ストリーム数) / (シンボル長 + GI)
パラメータ解説:
| パラメータ | 解説 |
|---|---|
| データサブキャリア数 | データを実際に伝送するために使用される搬送波の数。チャネル幅が広いほど多くなり、一度に送れるデータ量が増加する。この値はIEEE 802.11規格で厳密に定義されている。 |
| 変調ビット数 | 1つのサブキャリアで一度に表現できる情報量(ビット数)。電波の品質(SNR)が良いほど、1024-QAM (10bit) のような高密度な変調方式が利用可能になり、速度が向上する。 |
| 符号化率 (Coding Rate) | 伝送データの誤り訂正に使用される冗長ビットの割合を示す。例えば5/6は、6ビットのうち5ビットが実データ、1ビットが誤り訂正用であることを意味する。電波状況が良いほど、冗長ビットを減らして(符号化率を上げて)伝送効率を高めることができる。 |
| 空間ストリーム数 (Spatial Streams) | MIMO技術によって、同時に送受信される独立したデータストリームの数。アンテナ数に依存し、ストリーム数に比例して通信速度が向上する。 |
| シンボル長 + GI (Guard Interval) | 1つのデータブロック(シンボル)を送信するためにかかる時間。GIは、反射波による干渉を防ぐための保護区間であり、Wi-Fi 6では通信環境に応じて柔軟に長さを変更できる。 |
計算式の各数値の出典:
- データサブキャリア数: IEEE 802.11ac (Wi-Fi 5) および 802.11ax (Wi-Fi 6) の規格書で各チャネル幅ごとに定義されている値。
- 変調ビット数: 8bit (256-QAM) と 10bit (1024-QAM) は各規格の最高変調方式を示す。
- 符号化率: IEEE規格で定義された、電波状況が良い場合に適用される効率の高いレートを使用。
- シンボル長 + GI: Wi-Fi 5 (3.6µs) と Wi-Fi 6 (13.6µs) の標準的な値。
各パラメータの詳細な由来
- 変調ビット数: 変調方式は1サブキャリア当たりのビット数で表される。例えば、256-QAMは1シンボルで8ビット(2^8)を表現し、1024-QAMは10ビット(2^10)を表現する。これはQAMの位相/振幅の状態数に由来する。
- 空間ストリーム数 (SS): 2SS は 2x2 MIMO を意味し、4SS は 4x4 MIMO を意味する。各空間ストリームは独立にデータを運ぶため、ストリーム数に比例して理論上のスループットが増加する。
- シンボル長 + GI の内訳: Wi-Fi 5 系の典型的なシンボル長は約 3.2µs、ガードインターバル(GI) 0.4µs を組み合わせた合計で 3.6µs。Wi‑Fi 6 系ではシンボル長が約12.8µs、GI 0.8µs を組み合わせた合計で 13.6µs と表記される。これらの値は IEEE 規格のFFTやサブキャリア割当の仕様に基づく。
定量的計算式(13パターン)
以下は、表 1-3 の各パターンに対応するPHYレート計算の内訳である。左から順にパターン番号、計算式、算出されたPHYレート(Mbps)、および実効想定速度(効率60%)を示す。
| パターン | PHY 計算式(Mbps) | PHYレート | 実効スループット(効率60%想定) |
|---|---|---|---|
| 1 | (52 × 8bit × 3/4 × 2SS) / 3.6µs | 173 | 104 |
| 2 | (52 × 8bit × 3/4 × 4SS) / 3.6µs | 347 | 208 |
| 3 | (108 × 8bit × 5/6 × 2SS) / 3.6µs | 400 | 240 |
| 4 | (108 × 8bit × 5/6 × 4SS) / 3.6µs | 800 | 480 |
| 5 | (234 × 8bit × 5/6 × 2SS) / 3.6µs | 867 | 520 |
| 6 | (234 × 10bit × 5/6 × 2SS) / 13.6µs | 287 | 172 |
| 7 | (234 × 10bit × 5/6 × 4SS) / 13.6µs | 574 | 344 |
| 8 | (468 × 10bit × 5/6 × 2SS) / 13.6µs | 574 | 344 |
| 9 | (468 × 10bit × 5/6 × 4SS) / 13.6µs | 1147 | 688 |
| 10 | (980 × 10bit × 5/6 × 2SS) / 13.6µs | 1201 | 720 |
| 11 | (1960 × 10bit × 5/6 × 2SS) / 13.6µs | 2402 | 1440 |
| 12 | (980 × 10bit × 5/6 × 4SS) / 13.6µs | 2402 | 1440 |
| 13 | (1960 × 10bit × 5/6 × 4SS) / 13.6µs | 4804 | 2880 |
1-4 | 実行速度の減衰要因
PHYレートは物理層での理論上の最大速度を示すが、実際のデータ転送速度(スループット)はそれを大きく下回る。これは、通信プロトコルに起因する様々なオーバーヘッドが存在するためである。
- プロトコルヘッダ (Protocol Headers): 実際のデータには、MACヘッダなどの制御情報が付加されるため、その分だけ転送効率が低下する。
- フレーム間隔 (Interframe Spaces): 送信機会を調整するため、DIFS, SIFSといった規定の待機時間がフレーム間に挿入される。この時間はデータを送信できない。
- コンテンションウィンドウ (Contention Window): 衝突を回避するため、CSMA/CAの仕組みによりランダムなバックオフ(待機)時間が発生する。
- 応答フレーム (Acknowledgement Frames): データが正しく受信されたことを確認するためのACKフレームの送信にも時間が消費される。
- 管理・制御フレーム (Management/Control Frames): BeaconやProbe Request/Responseなど、データ転送以外の通信も帯域を消費する。
これらのオーバーヘッドの割合は、通信するパケットのサイズやネットワークの混雑状況によって変動するが、一般的に実効スループットはPHYレートの50%〜70%程度となることが多い。これは実測に基づく代表的な経験則であるが、実際の効率はパケットサイズ、通信の混雑度、端末の実装など多くの要因によって変動する。
1-5 | 共有媒体によるスループット低下とOFDMAによる効率化
無線LANは単一チャネルを全端末で共有するため、アクティブな端末が増えるほど、チャネル全体の通信効率が低下する。この問題を理解し、その解決策であるOFDMAを把握することは、Wi-Fi 6を設計する上で極めて重要である。
1-5-1 | 従来方式 (OFDM) の課題:コンテンションによる効率低下
Wi-Fi 5 (802.11ac) 以前のOFDM方式では、一つの通信機会(時間)を一つのクライアントが占有していた。
- メカニズム: 全端末がCSMA/CAのルールに従い、早い者勝ちで通信権を得ようとする。端末数が増加すると、通信権の奪い合い(コンテンション)が激化し、通信できずに待機する時間が増大する。この待機時間は、データを送受信しない無駄な時間であり、チャネル全体の総スループットを低下させる。
- また、小さなデータパケット(Webの応答やVoIPなど)を送信する場合でも、一つのクライアントが通信機会を完全に占有してしまうため、他のクライアントの待ち時間が長くなり、チャネル全体の利用効率が悪化する。
このため、アクティブ端末が増加すると、APが提供できるパイ(総スループット)の大きさ自体が縮んでしまう現象が発生する。したがって、単純に「APの総スループット ÷ クライアント数」という計算は成り立たない。
1-5-2 | Wi-Fi 6の切り札 (OFDMA) と計算への影響
OFDMA (Orthogonal Frequency-Division Multiple Access) は、この問題を解決するWi-Fi 6の革新的な技術である。
- メカニズム: OFDMAは、チャネルという周波数の「道」を、リソースユニット (RU) と呼ばれる複数の細いサブキャリア群に分割する。APはスケジューリングを行い、一度の通信機会で複数のクライアントに異なるRUを割り当て、同時通信を実現する。これにより、特にWebの応答やVoIPのような小さなデータパケットの通信効率が劇的に向上し、チャネル全体の待機時間が削減される。
OFDMA is a key feature of Wi-Fi 6 that allows an AP to serve multiple clients simultaneously by subdividing a channel. This reduces latency and improves efficiency, especially for short packets.
(OFDMAはWi-Fi 6の主要機能であり、チャネルを細分化することでAPが複数のクライアントに同時にサービスを提供できるようにする。これにより、特に短いパケットに対して遅延が減少し、効率が向上する。)
URL: https://www.cisco.com/c/en/us/products/wireless/what-is-ofdma.html
OFDMAの計算への影響
OFDMAが影響を与えるのは、多端末接続時のチャネル全体の総スループットである。
- 計算上の扱い: PHYレートの計算式 (1-3-1) は変更されない。 これは、あくまでシングルユーザーの理論上の最大値である。OFDMAの真価は、1-5-1で述べた「コンテンションによる総スループットの低下」を大幅に抑制することにある。つまり、アクティブな端末が増えても、チャネル全体のパイの大きさが縮みにくくなる。
以下の表は、この概念を理解するための一助となる。OFDMA環境では、ユーザーエクスペリエンスが理論値に近いレベルで維持されやすくなる。
| APの総スループット (仮定) | アクティブなクライアント数 | クライアント1台あたりの期待スループット (概念モデル) | ユーザーエクスペリエンスへの影響 |
|---|---|---|---|
| 720 Mbps (パターン10相当) | 1 台 | 720 Mbps | 非常に高速。大容量ファイルの転送も快適。 |
| 5 台 | 144 Mbps | 非常に快適。4Kビデオストリーミングも余裕。 | |
| 10 台 | 72 Mbps | 快適。ビデオ会議やクラウド利用に全く問題なし。 | |
| 20 台 | 36 Mbps | 良好。一般的なWebブラウジングや業務利用に十分。 | |
| 30 台 | 24 Mbps | 実用的。Web会議の品質が若干低下し始める可能性。 | |
| 50 台 | 14.4 Mbps | 最低限。Web表示の遅延が体感され始める。 |
注: この表は、APが持つ通信リソースがクライアント数に応じて分け与えられるという概念を示すための単純化したモデルである。Wi-Fi 6 (OFDMA) 環境では、多端末接続時でもチャネル全体の効率が維持されるため、実測値がこのモデルに近くなる。OFDMAの効果は、クライアントのUL OFDMA対応状況、通信トラフィックの特性(ショートパケットの多さなど)、APベンダーのスケジューラ実装に依存して増減する。